archive 2023年度アーカイブ

本記事は、川村文化芸術振興財団に提出された報告書をもとに、原稿整理、短縮などの編集、再構成を行ったものです。

日本一海洋プラゴミが流れ着く対馬で漂着ゴミを素材にソーラーカヤックを作るプロジェクト

【申請プロジェクト名】
日本一海洋プラゴミが流れ着く対馬で漂着ゴミを素材にソーラーカヤックを作るプロジェクト

【申請者名】
ハイドロブラスト

【助成金】 50万円


【概要】
ハイドロブラストは映画監督、俳優である太田信吾を中心に映像・舞台・アート作品などを創作するために設立された団体である。太田はアーティスト、かのうさちあ氏と数年間にわたりコラボレーションを続けてきた。
かのう氏と創作を続ける過程で、長崎県対馬市の海岸に漂着ゴミが溢れる現実に直面し、日本一海洋プラゴミが流れ着くその町で漂着ゴミを素材にソーラーカヤックを作るプロジェクトを発案、試作を重ねてきた。本格的なプロジェクトを2023年夏に実施し、さらにその過程をドキュメントとしてまとめ、レクチャーパフォーマンスおよび映像作品、ラップ作品に昇華させる。ゴミもアイディア次第で素材として活用できるということを、「漂着プラスチックゴミをカヤックとしてアップサイクルする」過程で体現し、それを伝えていくことが本プロジェクトの目的である。


【開催/実施/発表】

●住民説明&役場との連携・現場視察|2023年4月27日〜29日
長崎県対馬市および長崎県各地にて、計画をしているプロジェクトについての説明、進行方法・長期的計画などについての協議のほか、漂着ゴミが問題になっている井口浜海岸(対馬市)を含む実地視察を実施した。

〈場所〉対馬市役所、NPO法人環境カウンセリング協会長崎 サステナプラザながさき、長崎県庁、アートスペースhatoba、民宿たちばな、ほか
〈参加人数〉15人

所感:それまではオンラインなどでのやり取りを進めていたが、実際に顔を合わせて各担当者の方々と連携を図ることができ、プロジェクトの具現性をイメージすることができた。また、実際に海岸にカヤックで出て対馬沖の自然環境について理解を進めることができた。


●漂着ゴミ集め、カヤック試作|4月29日

漂着ゴミからソーラーカヤックを作るプロジェクトのため、海岸でプラゴミを集める作業を実施した。


〈場所〉井口浜海岸

〈参加人数〉2人


所感:拾っても拾っても減らない海岸に散らばる漂着ゴミの多さに衝撃を受けるとともに、この問題の深さをあらためて痛感する時間となった。また漂着ゴミのラベルなどから、流れ着いたゴミは近隣の海域からの漁具だけではなく、近隣諸国(中国、韓国、東南アジア諸国)からのものも多く含まれているとわかったことも大きな発見である。以後、あらためて諸外国とも連携をとっていくことの必要性を感じた時間となった。

対馬の海岸の漂着ゴミ

●ソーラーカヤックづくり、試乗体験会|5月3日〜5日
ソーラーカヤックづくりを担当していただいたアーティストのかのうさちあ氏を長野県天龍村に招き、当団体の太田が学生時代から縁がある天龍村にて制作が進行したカヤックを活用し、川下りツアーを実施した。

〈場所〉長野県天龍村、天竜川
〈参加人数〉12人

所感:現場は山間の崖の合間を縫うように流れる川であり、容易に見ることができない川からの希少な景色を求めて多くの研究者や記者、文化館館長ら地域資源に関心のあるメンバーが集い、試作品ボートに乗船して遊覧を行った。崩落した橋やダムに沈んだ村の生活の跡など、河川流域の文化資源を発見することができた。一方で、船に関しては水漏れがあったり、併用するバッテリーの持ち時間などで走行距離も限られたりと、まだまだ改良の余地があり、今後の課題が明確となった。
ボート制作の過程

●ソーラーカヤックづくり|6月15日〜7月8日
YAU(有楽町アートアーバニズム)のレジデンスアーティストとして選出していただき、滞在中にソーラーカヤック制作を実施した。また、ソーラーカヤックの試乗を荒川で実施し、乗り心地などの確認、今後の改良ポイントなどを確認した。

〈場所〉YAU(東京・有楽町)、荒川
〈参加人数〉10人

所感:現地はコワーキングスペース機能も備わっている施設となっており、入居しているほかのアーティストなどと情報交換や活動紹介なども実施することができた。また、YAUの運営母体の一員である三菱地所株式会社の担当者の方々などと、今後の本プロジェクトの発展性やコラボレーションの可能性について協議する時間をいただき、将来的に金銭を含むサポートの意を申し出ていただくことができた。

●ソーラーカヤック体験イベント、展示|7月15日、16日
対馬市が毎年開催した「対馬海ごみシンポジウム2023」のシンポジウム会場において、ソーラーカヤックの展示・制作実演を実施した。また、制作実演したソーラーカヤックを用いて井口浜海岸において開催された「2023日韓市民ビーチクリーンアップワークショップ」内にて、実際の乗船体験を実施した。

〈場所〉対馬市交流センターイベントホール、井口浜海水浴場
〈参加人数〉300人

所感:韓国より来日した釜山外国語大学の学生たちとカヤックづくりや体験イベントを通じて交流を深め、海ゴミ問題について相互理解や課題確認などを実現することができた。
「対馬海ごみシンポジウム」での韓国学生との交流

●記録映画「ソーラーボートの作り方」上映会|9月15日〜22日
今回の活動を含む本プロジェクトの一部を映像にまとめ、同作品の上映会をハイドロブラスト代表の太田信吾の短編集の1本として上映を実施した。

〈場所〉豊岡劇場(兵庫県豊岡市)
〈参加人数〉55人

所感:進行しているプロジェクトの進捗報告と今後の展望などを映像に込めることによって、本プロジェクトに参画したいという方々が現れるなど、広報面でも貴重な機会となったと感じた。


●プラゴミを使ったボートづくりワークショップ|9月23日

カヤックづくりを担当するアーティストのかのうさちあ氏が所蔵する団体「幸屋」と連携し、このプロジェクトの間に蓄積されたボートづくりのノウハウを生かして、夏の間にレジャー施設などで得たプラゴミをボートの素材として活用するワークショップを実施した。


〈場所〉静岡県佐久間町

〈参加人数〉4人


所感:対馬でのゴミの回収から、その後のカヤックづくりのノウハウを応用し、他地域でも活用できるということを再認識する時間となった。


【成果】

1 総括
長崎・対馬での漂着ゴミを活用したボート、カヤック制作を通じて海洋漂着ゴミの問題の深さを再認識するとともに、一連のドキュメントを映像化/テーマ曲とすることで、その問題を今後も共有していける作品が仕上がったのは大きな前進となった。また、ボートを1日50キロ程度まで安全に走行できる体制まで仕上げることができたため、そのノウハウを他地域でも展開したり、活用して乗船の機会創出がいつでも可能となったりしたことも、プロジェクトメンバーたちにとっては大きな財産となった。


2 韓国とのつながり

今回のプロジェクトを通じて関係性を深めてきた釜山外国語大学の学生らとは、2024年にシンポジウムなどあらためて日韓でのイベントを計画している。また、ソウルのAAMP(Asian Artist Moving Image Platform)と連携し、ソウルで今回制作した映像作品の上映会およびレクチャーを2024年秋に計画をしている。


3 対馬におけるプロジェクトの発展性

対馬から釜山港までは直線距離およそ50キロほどであり、かつては遠泳リレーでこの海峡を横断するなどの日韓交流イベントが実施されていたことを、プロジェクト期間中に地元の漁師さんなどから教えていただいた。その漁師さんら地元住民らと連携し、今回制作をしたソーラーカヤックボートで海峡横断を実施するイベントを、2025年を目処に実施する計画を進めている。2025年は長崎県が国民文化祭の実施県に選出されており、同「ながさきピース文化祭2025」のプログラムとしてイベントを開催できるように協議・計画を進めている。

カヤック製作中には子供たちとの交流もあった(井口浜・香川など)
試乗の様子
【プロジェクトデータ】
総合ディレクション:太田信吾 制作・パフォーマー:竹中香子 ソーラーカヤックの制作・音楽・アーティスティックコラボレーター:かのうさちあ 経理:川津彰信 ソーラーカヤック製作指導・安全指導:須江洋輔(TEBOLO)