※本記事は、川村文化芸術振興財団に提出された報告書をもとに、原稿整理、短縮などの編集、再構成を行ったものです。
越境するモキュメンタリー
【申請プロジェクト名】
越境するモキュメンタリー
【申請者名】
小鷹拓郎
【助成金】 50万円
【概要】
インドネシアとパプア島のアーティストやミュージシャンとともに、モキュメンタリー手法を用いて日本軍が残した架空の「負の遺産」をテーマにした新作映画を制作する。撮影場所として考えているのは日本軍の洞窟が観光地化されて残されているインドネシアのジョグジャ、戦禍の爪痕が残る西パプア そして私の地元である埼玉県各所を舞台に、現地のアーティストやミュージシャン、映画制作者と協力しながら撮影する。
モキュメンタリーとは、1930年代に生まれたフィクションをドキュメンタリー風に撮影する映像表現である。政治情勢が不安定な地域や、紛争地帯で活動するアーティストたちは、様々な手法を使って検閲から逃れる術を磨いてきた。2021年頃から彼らと協働することが多かった私は、制作活動を通して、検閲のためのモキュメンタリー映画について学び、実践をしてきた。
今回、Papuan Voices(パプア島)、、Belum Mati Studio(ジョグジャ)の現地アーティストやミュージシャンと連携しながら、日本軍が残した負の遺産について、共同で制作を行う。
【開催/実施/発表】
現地での制作では映画コレクティブ「Papuan Voices」が全面的にサポートしてくれた。パプアで最も大きな都市ジャヤプラでは、パプアの映画監督たちとともに裁判所を訪れ、審議中の法廷の様子を撮影することができた。密林地帯ワメナでは、原始的な生活をしているダニ族の村を訪れ、ダニ族と共同生活をしながら滞在制作を行った。太平洋戦争の激戦地だったビアクでは、いまも戦争の爪痕が残され、日本軍の遺品や遺骨が埋まっている。戦争を経験した108歳の女性と88歳の男性にインタビュー取材。日本兵の遺骨収集を仕事とする若者たちに同行させてもらい、撮影を行った。
制作した映像作品は、パプアの3都市で開催された巡回上映会「Papuan Voices Presents Takuro Kotaka Films: Crossing boundaries with Mockumentary」にて公開。ジャヤプラ、ワメナ、ビアク。それぞれのイベントで現地の映画監督をゲストに招き、トークを開催。合計300人程度が来場した。|2023年10月21日、29日、11月7日
日本では三つの関連イベントを実施した。パプア滞在時に出演したNO LIMIT TOKYO 2023の企画「アジアの最果てから生中継」では、ジャヤプラから日本に向けたオンライン実況トークを行った。帰国後に2回のトークイベントを催し、パプアの映画監督やジャーナリストたちが制作したドキュメンタリー映画を紹介するなどした。
◯「アジアの最果てから生中継!〜未知の地下文化圏はまだ存在するのか!?〜」出演:居原田遙、小鷹拓郎 聞き手:松本哉&江上賢一郎|9月30日
〈会場〉なんとかBar(東京)※YouTube配信あり
◯小鷹拓郎トークイベント「パプア・ナウ ニューギニア島のアンダーグラウンドカルチャー」特別ゲスト:池田佳穂|12月3日
〈会場〉パンディット(東京)
◯小鷹拓郎トークイベント「ダーク・パプア ニューギニア島で何が起こっているのか?」特別ゲスト:江上賢一郎|12月16日
〈会場〉Irregular Rhythm Asylum(東京)
【成果】
パプアは依然、独立運動が盛んで政治的に不安定な状況にある。そのなかでセンシティブな作品を作ることやドキュメンタリー映像を撮影すること自体が大きなリスクを伴うため、「検閲や表現規制を逃れるための新たな表現手法」といったトピックはパプアでは非常に関心が高かった。パプアでの共同制作やトークイベントを通し、現地の作家たちとモキュメンタリーの有用性や新たな手法の可能性について意見交換を重ねることができた。帰国後もパプアの映画監督やアーティストたちと連絡を取り合っている。今後は彼らを日本に招いて作品発表の場を提供したり、私が再度パプアを訪れて新たなプロジェクトを始めるなどしながら、これらかもお互いの表現を通した文化交流を続けていきたい。