archive 2022年度アーカイブ

本記事は、川村文化芸術振興財団に提出された報告書をもとに、原稿整理、短縮などの編集、再構成を行ったものです。

見えない人たちのまち

【申請プロジェクト名】
見えない人たちのまち

【申請者名】
NPO法人マエバシ・アート・プラクティス&柴田祐輔

【助成金】 40万円


【概要】
群馬県は、人口に占める移民比率が急上昇し、2019年の調査では全国第3位であった。巨大な都市を含まない自治体でありながらそれだけ多くの移民を抱える状況は、特異なものといえる。コロナ禍にあって、国籍や置かれている状況によって違いはあるものの多くの人々は国際間の移動のままならないなか、日本社会に留まり生活を送っている。このプロジェクトでは柴田祐輔氏を招聘作家とし、リサーチを通してその人たちを可視化していく。


【開催/実施/発表】

●リサーチ

内容:留学生や技能実習生などの外国人労働者たちや、その環境やコミュニティー

期間:2022年4月~2023年3月
場所:北関東のアジア食材店やハラールフードを扱うお店、千葉県成田市「ワットパクナム日本別館」、茨城県筑西市「プッタランシー寺院茨城」、埼玉県川口市「川口芝園団地」、群馬県邑楽郡大泉町のブラジル人コミュニティー、同県前橋市のベトナム人コミュニティー


●ワークショップ

◯春巻きワークショップ|2023年2月5日

〈会場〉前橋市のベトナム人宅

〈参加人数〉ベトナム人5人


◯抹茶ワークショップ|2月12日

〈会場〉前橋市の蛇穴山古墳

〈参加人数〉5人(うちベトナム人4人)


◯手打ちうどんワークショップ|2月25日

〈会場〉前橋市の農家

〈参加人数〉5人(うちベトナム人2人)


◯ベトナム料理ブンボーフエワークショップ|2月26日

〈会場〉前橋市のベトナム人シェアハウス

〈参加人数〉ベトナム人6人


手打ちうどんワークショップの様子

●成果展

「ニュー本場」|2023年3月12日

映像を用いたインスタレーション(映像作品2点)、屋台4店(日本人の作るベトナム料理屋台2店、ベトナム人の作る手打ちうどん屋台2店)
〈会場〉ya-gins(群馬県前橋市弁天通り商店街)
〈参加人数〉約300人


【成果】

2022年4月より約1年にわたり外国人コミュニティーのリサーチを行い、その成果展となる「ニュー本場」を開催しました。リサーチにおいては、アーツ前橋が行ったプロジェクト「イミグラジオ」(移民の人たちとのラジオ形式のYouTube)などでの人脈や情報を引き継ぎ発展させることができ、ベトナム人コミュニティーとスムースに関係性を構築することができました。

リサーチのなかでの驚きは、寿司は日本料理の代表でありますが、群馬の大手回転寿司チェーン店ではベトナム人が店長を務め、バックヤードで働くほとんどの人がベトナム人。ベトナム語でコミュニケーションが行われていて、日本語を覚える必要がないほどであると聞かされたことです。それは、多くの移民の人たちが来れば来るほどそのコミュニティーは強固になり、その地域のコミュニティーとの断絶が起こるということを意味します。日本の食文化の象徴である寿司、それを外国人が担いながらも日本文化との分断が生じています。

成果展では、柴田祐輔氏は実際に留学生が働く工場で働き、その経験を元にパフォーマンスを行い映像化したもの展示しました。ワークショップを踏まえ、屋台も4店出店しています(柴田氏が下記原稿で詳報しています)。屋台には多くの人が集まり、用意した300食余りが完売となりました。このことからも「食」は異文化を知るうえで非常に有効に働くことを実感しました。
こういった多文化共生プロジェクトは継続していくことが重要であると思うので、引き続き実践していきたいと思います。


(特定非営利活動法人マエバシ・アート・プラクティス 八木隆行)

「ニュー本場」展、柴田祐輔作品の展示風景
断続的ではありますが、2022年4月より1年間にわたって外国人コミュニティーなどをリサーチしてきました。群馬県前橋市に限らずさまざまな北関東の地域や、異なる国の在留外国人の話を聞くことで、本プロジェクトの対象地域である前橋市の在留外国人の置かれた状況が、より立体的に把握できたように感じます。

日本の風景のさまざまな“裏側”を、外国人労働者たちに支えられる事ことを前提として成り立っている私たちの社会。私は今回のリサーチのなかで、群馬県の回転寿司の店長がベトナム人という驚きの事実を知りました。日本の”裏側”にだけでなく、すでに日本人の国民食ともいえる寿司屋の店長をベトナム人がやっているのなら、自分はベトナム料理屋の”裏側”に入ろうと5店舗以上に無償でのお手伝いを嘆願するも、すべて断られてしまいます。その経験に加え、さまざまな場面で日本人と在留外国人が互いの領域を越えて交わることの難しい現状を目の当たりにすることとなりました。

今回のプロジェクトの成果展「ニュー本場」では、大勢のベトナム人が働く埼玉県熊谷市の惣菜工場に派遣バイトとして潜入労働した際のルポや、その体験から制作された映像作品に加えて、メインのイベントとして、ギャラリーの前に手打ちうどんとベトナム料理の屋台を計4店舗出店。

ベトナム人のタオさん、グェンさんたちは、豊かな粉文化を持つ群馬県の手打ちうどんを前橋の家庭で学び、それぞれ別の小麦、違った麺の太さや形の手打ちうどんを、2店舗のベトナム式の屋台で提供します。店のメニューや価格、サインはすべてベトナム語表記。日本の店の”裏側”ではなく、あくまでもベトナム人として日本の伝統料理を作り、その料理を「新しい本場」の母国の料理として、提供してもらうのが狙いです。日本人側の出す店も同様に、柴田はフエ出身のベトナム人留学生に教えてもらった彼女の郷土のベトナム料理、ブンボーフエ(牛肉麵)を、前橋在住のニャムコムさんは、ベトナム人のタオさんから教えてもらったネムザン(揚げ春巻き)を作って、それぞれ日本式の2店舗の屋台で提供します。

かつて日本の労働を支える外国人の中心にいた中国人たちが、ベトナム人たちと入れ替わりいなくなっていくように、ベトナム人たちもまた、自国の経済発展がさらに進めば日本からいなくなってしまうでしょう。いまは至る所で出店ラッシュのベトナム人相手のベトナム料理屋もまた、そのときには姿を消してしまうのかもしれません。でも、たとえばその味を日本人が受け継いでいたのなら、鉄砲の伝来とともにポルトガルから天ぷらが伝わり日本食の代表的な存在となったように、ベトナム人たちが居なくなってしまっても、彼らの風土や風習から生まれた食文化が新しい日本料理として解釈され、「ニュー本場」の料理として日本に定着している未来があるかもしれません。互いに少しずつ歩み寄りながら、勘違いやズレを咀嚼して、まだ見ぬ「ニュー本場」をみんなで試みました。

(柴田祐輔)
【プロジェクトデータ】
招聘作家:柴田祐輔 コーディネート:福西敏弘 アシスタント:天笠恵子 助成:一般財団法人川村文化芸術振興財団、令和4年度アーツカウンシル前橋文化芸術活動奨励事業 特別協賛:株式会社ヤマト 協力:ya-gins、Bentena SHOP、Thao Hoang、Nguyễn Nguyên、Thanh Quang、Nhật Lệ、Thanh Tuyền、小出和彦、今井忍、今井仁、石原シノ