※本記事は、川村文化芸術振興財団に提出された報告書をもとに、原稿整理、短縮などの編集、再構成を行ったものです。
ドキュ・アッタン シアター──ミャンマーのクリエイターたちとともに「声」をあげる/届けるプロジェクト
【申請プロジェクト名】
ドキュ・アッタン シアター──ミャンマーのクリエイターたちとともに「声」をあげる/届けるプロジェクト
【申請者名】
Docu Athan ドキュ・アッタン
【助成金】 150万円
【概要】
Docu Athan(ドキュ・アッタン)は、2021年にミャンマーで起こったクーデター以降、さまざまな困難を抱えている同地のクリエイターたちと協同し、映像を中心とした芸術・文化的実践を介し、ネットワークを築くことを目的として活動する団体/プロジェクトである。この団体/プロジェクトは2023年の2月に、ミャンマーで拘束された経験を持つ、ジャーナリストの北角裕樹と映像作家の久保田徹を中心として開始した。「アッタン」はビルマ語で「声・意見」を意味する。活動の中心は、プロジェクトのウェブサイトにて、ミャンマーのクリエイターたちによって制作された映像作品を、翻訳・紹介・発信し、それらを通じたクリエイターたちの芸術・文化的な活動の支援を募ることである。映像をはじめとしながら、さまざまなアートの実践を介して「声をあげる/届ける」ことを目的としている。
「ドキュ・アッタン シアター──ミャンマーのクリエイターたちとともに『声』をあげる/届けるプロジェクト」は、そうしたこれまでのドキュ・アッタンの取り組みを背景・経緯としたオンライン上の活動の継続と、それらを基盤としてタイ、日本国内で新しいネットワークを構築する上映会型のイベントを行うものである。
プロジェクト全体の運営・実施の主体は、発起人である北角、久保田をはじめとし、キュレーターとして活動している居原田遥や協力者10人程度から成り立つ。
【開催/実施/発表】
●イベントなどのスケジュール
◯ドキュ・アッタン シアター #沖縄|2024年6月7日、8日、9日
〈会場〉エイン(沖縄県糸満市)、沖縄大学ミニシアター(沖縄県那覇市)、普久原朝日事務所(同)
〈参加人数〉50人
◯ドキュ・アッタン シアター #Kenduri Seni Patani|8月10日~12月10日(11月下旬に同地域は水害に遭い、芸術祭は12月初旬に中断)
〈会場〉Patani Art Space(タイ、パタニー県)
〈参加人数〉35人程度
◯タイでのコミュニティースペースと場所づくり|9月~現在
〈会場〉Docu Athan Square(タイ、ターク県メーソット)
◯「映像でみるアフリカ・アジア社会とその課題 第1回『銃ではなくカメラを武器に闘うミャンマー人映像作家たちのまなざし』」への参加|10月30日
〈会場〉Fab Café(京都府京都市)
〈参加人数〉20 人
◯ドキュ・アッタン シアター #TOKYO|2025年2月8日、9日
〈会場〉みなとコモンズ(東京都港区)
〈参加人数〉73人
【成果】
ドキュ・アッタン シアター #沖縄 沖縄県では3カ所で上映会を開催しました。初日は、糸満市にある「エイン」というコミュニティースペース。ビルマ語で「家=エイン」を意味するこのスペースは、糸満市で技能実習生として働く若いミャンマー人たちの憩いの場で、市議会議員の浦崎暁さんが運営しています。上映会の参加者の多くは沖縄で働く若いミャンマー人でした。若者たちからはミャンマー料理がふるまわれ、参加者と食事をしながら上映会を行いました。上映会のあとには、ミャンマーを離れて暮らす若者たちの想いを聞くことができました。
2日目は若林千代教授(沖縄大学)の協力の下、沖縄大学のシアタースペースで上映会を開催しました。また、上映後のディスカッションには映画監督の福地りこさんを招いて、映像のもつアーカイブや記録の意味に関する議論を深めました。
3日目は那覇市栄町にある普久原朝日さんの事務所に仮設の上映会場を設置し、上映会を行いました。同じく栄町には在沖縄ミャンマー協会を作ったロイヤルミャンマーレストランを営む、トゥヤソーさんとチョチョカインさんというミャンマー人の夫婦が住んでいます。この二人とともに、沖縄でミャンマーのクーデターを伝えることについての意見交換を行いました。3日間にわたる「ドキュ・アッタン シアター #沖縄」には研究者のナンミャーケーカインさん(京都精華大学特任准教授)が同行し、イベントにゲストやレクチャーとして参加しました。
タイ深南部パタニー県で開催された芸術祭「Kenduri Seni Patani(パタニー芸術祭)」に、団体メンバーでキュレーターの居原田遥の企画「たてなおシアター」のひとつのプログラムとして、「ドキュ・アッタン シアター」の上映型の展示を行いました。パタニー芸術祭は、主催であるパタニーアートスペースをはじめ、市内の9カ所の会場を使う大規模な芸術祭型のイベントです。上映作品には新たにタイ語の字幕版を制作し、芸術祭のオープニングイベントでは参加アーティストたちに向けた上映会も開催しました。
●上映会の参加や共同
沖縄での上映会に参加してくれたナンミャーケーカインさんによる京都での上映会型の研究会「映像でみるアフリカ・アジア社会とその課題」に参加しました。京都で人類学や地域研究を学ぶ学生や関西でミャンマーの活動に取り組む方々と、意見交換を行う機会になりました。
●タイでの場所づくりプロジェクト
ミャンマーのアーティストたちとの共同のために、タイのメーソットで「Docu Athan Square」(ドキュ・アッタン スクエア)というコミュニティースペースを立ち上げました。ミャンマーのアーティストたちの交流の場を目指し、撮影機材の貸し出しやそれらの使い方を学ぶワークショップ、ドキュメンタリーをはじめさまざまな映像作品をともに見て議論する「Docu Agora」というワークショップ型のイベントシリーズ、ジャーナリズムや映像制作のためのワークショップなどを開催し、ミャンマーのアーティストたちとのつながりを深める場づくりに取り組みました。
●ドキュ・アッタン シアター #東京
上映とさまざまなゲストを招いたトークやシェアミーティングの場を設けました。上映展示では、「アート」と「ジャーナリズム」の二つのプログラムを設定し、これまでミャンマーの作家たちが制作した作品に加え、日本で初公開となる新作の上映を行いました。また、アーティストの小鷹拓郎さん、沖縄で音楽祭を主催する元山仁士郎さん、香港の民主化運動に文化的なアプローチで取り組むアリックリーさんを招いて、参加者とともに、それぞれの取り組みに関して話を聞きながら意見交換を行いました。
この1年間は、ミャンマーのアーティストたちと「共同する場」と、それらを「発信する場」という、二つの場づくりに存分に取り組めたと感じています。タイ、メーソットでの場所づくりプロジェクト「Docu Athan Square」では、ミャンマーのアーティストたちの「映像制作を行う」ことへの機会の提供と環境の整備や充実化を図ることができました。また物理的な環境の構築だけでなく、ワークショップや講習会、勉強会などたくさんのイベントを開催することで、メーソットにおける映像実践を軸とし
たコミュニティーづくりの基盤を築くことができたと捉えています。
また、沖縄、京都、タイ、そして東京での上映会の活動は、作品それ自体を通じて、ミャンマーの作家たちの想いや実態を伝える機会を提供しただけではなく、そこでさまざまな人たちに出会い、作品の感想を聞き、取り組みへのフィードバックを得られたこと、そしてその地域や人々の取り組みや課題を知ることができました。
この取り組みの最中に、ミャンマーのクーデターから4年が過ぎた2月を迎えました。クーデターによって引き起こされた混乱と情勢は落ち着くことなく、市民社会はたくさんの困難を抱え、ミャンマーのアーティストたち、そして人々は、さまざまな暴力と不安を抱えて生きています。一方で、そうした状況の周知をはじめ、国際社会の関心は徐々に薄れていきます。今後も、根強い情報発信の機会の構築が必要です。また、そうした困難に立ち向かうアーティストたちとともに共同し、さらにその活動を続けていけるように、新しいネットワークを広げていく必要性を強く感じています。
この助成金で築くことができた機会を大切にしながら、そして今後も活動を継続し、より広げていきたいと考えています。
Docu Athan(ドキュ・アッタン)のウェブサイト
https://www.docuathan.com/